1 相談内容
父親が亡くなりました。相続人は兄と次男の私だけです。兄は大学・大学院まで行き,卒業後は,東京の大手企業に就職しました。兄は結婚をする際は結婚資金として1000万円を援助してもらい,父親が亡くなる前も2000万円をもらっていました。
他方,わたしは高校卒業後に大工を目指し,近所の工務店に就職し現在も働いています。わたしは,父親からお金や援助をもらったことは1度もありませんでした。
父親の遺産としては預金が3000万円ほどあるのですが,法定相続分というのがあり通常は兄弟で半分ずつ取得すると聞きました。そうすると,兄は1500万円,わたしも1500万円を相続することになりますが,これではあまりに不平等ではないでしょうか。
わたしは兄よりも多く遺産を相続することはできないでしょか。
2 特別受益制度
上記のような事例の場合,相談者の方が兄よりも多くの遺産を相続することができます。それは,特別受益というものがあるからです。
特別受益とは,共同相続人間の公平を図ることを目的に定められている制度です。共同相続人の一人又は数人が被相続人から贈与などの特別の受益を受けていたときに,これらの特別な受益を受けている者は,その受け取った額が特別な受益を受けている者の相続分算定において斟酌され,相続分に充当されます。また,相続分を超える場合には受益額の限度内に自己の相続分を減縮させるものです。
3 具体的計算
(1)みなし相続財産
具定例をもとに相続分を計算してみましょう。
相続財産は3000万円の預金です。兄は,生前に合計3000万円の贈与を受けています。
この場合,相続財産の合計を6000万円とみなして計算します。
(2)具体的相続分
・兄:6000万円÷2-1000万円-2000万円=0
・相談者:6000÷2=3000万円
(3)結論
特別受益の制度があることで相談者は,相続財産の全額である3000万円を取得することができます。
なお,兄は大学・大学院まで行っていますが,通常学費などは親の扶養の一内容として支出されるものであり,遺産の先渡しとの趣旨は含まれないので特別受益に当たらないと思います。また,仮に特別受益と評価されるとしても,父親には相続分の計算の際に,特別受益分を控除してもいいとの意思があると推定できるのでやはり特別受益とは認められないと思います。
4 まとめ
遺産分割の際には,被相続人が亡くなったときに残っている財産だけでなく,遺言による贈与である遺贈や生前の贈与なども含めて相続分を検討しなければなりません。しかし,生前の贈与などを調べることは容易ではなく,特別受益の主張をし過ぎると紛争が長期化する可能性もあります。そのため,早期に弁護士に相談し,金融機関への照会やどの程度まで主張をするかを検討する必要があると思います。
相続については早めに弁護士に相談することをお勧めします。
執筆者:東京支部長/岡 篤志