1 遺言書は本当に必要?
よく知り合いの方などから,「わたしは大したお金を持っていないから遺言書なんて必要ないよね」と言われます。
遺言書の作成が絶対必要とは言いませんが,残される家族のことを思うのであれば遺言書を作成しておくべきだと思います。更に,以下のケースのような方は特に遺言書作成の必要が高いでしょう。
2 遺言が特に必要なケース
(1)子どもがいない夫婦で夫が亡くなった場合
私たち夫婦には子どもはいませんし、両親もすでに亡くなっています。兄弟は兄が1人いますが疎遠で、ほとんど連絡をとっていません。わたしの財産は全て妻に残してあげたいと思っています。 |
ア 遺言がない場合
法定相続分に従って分配することになるので、夫の遺産のうち妻が4分の3、兄が4分の1を取得することになります。結局、夫の要望に反して妻が全ての財産を取得することができません。
イ 遺言がある場合
兄弟姉妹には最低限保証された相続分である遺留分はありません。そのため、妻が兄から遺留分侵害額請求をされることはありません。そのため、生前に「全財産を妻に相続させる」旨の遺言を作成しておけば妻が全財産を取得することができます。
(2)長男が介護を頑張ってくれていた場合
私には長男・次男・長女の3人の子がいます。夫には先立たれましたが、長男の家族が一緒に住もうと言ってくれて今は長男家族と一緒に住んでいます。私は介護が必要な状況ですが、長男が介護をしてくれています。 |
ア 遺言がない場合
高齢者の介護は大変な労力と精神力を要します。そのため、介護をした者としない者との間で、遺産分割の争いが起こることがよくあります。
長男は次男と長女に対し、「父の介護をしたのだから多めに遺産を取得させろ」と主張しましたが、次男と長女は認めません。話し合いがまとまらなければ,遺産分割調停になりますが,調停になれば1年以上かかることがほとんどです。
イ 遺言がある場合
長男が介護をしてくれたという事実を考慮して、長男の取り分を次男・長女より多くする内容の遺言を作成しました。遺言書にはどのようなことを記載してもいいので、長男、次男、長女対する感謝の言葉も記載しました。このような遺言を作成すると,次男・長女は納得しやすくなり,争いに発展する可能性は低くなります。
(3)再婚をしていて前妻との間には子どもがいる場合
私たち夫婦は再婚です。わたしには前妻との間に子どもがいますが、今の妻と前妻との子は仲がいいとはいえません。私の財産は,自宅不動産と預貯金が数千万です。 |
ア 遺言がない場合
後妻と先妻の子どもとの間では遺産分割の争いが生じやすいです。再婚した妻(後妻)・子どもそれぞれ2分の1の相続権が発生しますが、自宅不動産の取得方法について争いになりました。
イ 遺言がある場合
遺言により、後妻に自宅不動産を,先妻との間の子どもに預貯金を与えると明確にすることで争いになる可能性が著しく下がります。この場合も,なぜ後妻に自宅不動産を残すかを遺言書に記載することで皆が納得できる結果となります。
3 最後に
遺言書は家族に対する最後のラブレターです。そして,遺言書には法律的な効力だけでなく,家族をバラバラにさせない・争わせないという力もあります。
残された家族が自分亡き後も仲良く幸せに暮らしてほしいと思うのであれば,遺言書を作成することをお勧めします。
遺言書の作成・執行に関するご相談は弊所までお問い合わせください。
執筆者:東京支部長/岡 篤志